第3話
季節の匂い
翌日の午前中、私は家の周りを歩いてみることにした。
引っ越して以来、室内の整理に追われていて、敷地の外へ出ることをしていなかった。郊外といっても、車で十分ほどの距離に駅がある。だから、ここは「田舎」というより「半田舎」に近い。そのことが、かえって判断を難しくしていた。
土道を歩くと、靴に赤土が付く。前の家では考えられないことだ。不快ではなく、むしろ珍しさを感じた。
農家のおじいさんの家の脇を通ると、誰かが作業をしている音がした。覗くわけにもいかず、そのまま進んだ。田んぼの向こう側には、別の家が見える。昨日から気づいていたが、近づいてみるとそこは空き家らしかった。窓に木の板が打ち付けられ、入り口には錆びた南京錠がかかっている。
季節は初夏。空気が湿った匂いを帯びていた。都市では気づかなかった、植物の匂い、土の匂い、水の匂いが層状に重なっている。
一周して戻ってくると、玄関の前に何かが置いてあった。青いビニール袋だ。中を見ると、野菜が入っていた。トマト、ナス、キュウリ。どれも、スーパーで見るものより形が不揃いだ。
誰が置いたのか。おじいさんだろうか。それとも、別の誰かなのか。
メモは何も入っていなかった。ただ、野菜があるだけだ。その事実が、昨夜の疑問を別の形で浮かび上がらせた。この場所は、何かを求める場所ではなく、何かが流れ込む場所なのかもしれない。
コーヒーを淹れるまでの、その数分間、私は野菜をどうするかで迷っていた。
続きはまもなく
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