第2話
勉強部屋
一冊目を終わらせるのに、二週間かかった。
野球の練習なら、同じ時間をかければ確実に体に染み込む。でも勉強は違う。読んだはずの内容が、次の日には半分忘れてる。そういうもんなんだろうか。それとも、年のせいなのか。
妻が子どもたちの勉強部屋を片付けてくれた。子どもたちが進学で家を出た後、ずっと物置状態だった部屋だ。机を拭いて、照明を取り付けて。「集中できる環境が大事よ」って言ってくれた。
そこに籠もると、不思議と違う世界に入る。リビングでやってた時と全然違う。テレビの音も聞こえないし、家族の気配も薄くなる。野球一筋だった三十五年間で、こんな感覚は初めてかもしれない。
ただ、二時間が限界だ。それ以上やると、頭が重くなる。体は疲れてないのに、脳が拒否反応を示す。これが加齢ってやつか、と思いながら、参考書から目を離す。
窓の外を見ると、紅葉が進んでいる。十一月の中旬だ。試験まで、あと三ヶ月。間に合うのか、本当のところはわからない。でも、野球だって入団したばかりの頃は、できるかどうかわからなかったんだ。
机の上には、二冊目の参考書が置いてある。背中をさすりながら、俺はもう一度、それを開くことにした。
続きはまもなく
目次