第4話
八日目の選択
八日目の朝、佐藤は医師の診察室に戻っていた。
「良好な経過ですね」医師は淡々と言った。「睡眠時間は増えましたか」
「はい。夜中に目が覚めることがほぼなくなりました」
医師は頷いた。「重要なのは、ここからです。一週間で改善したのは、新しい習慣があなたの体に受け入れられ始めたからです。ですが、習慣は脆い。この先、元に戻ろうとする力が働きます」
佐藤は医師の言葉を受け止めようとしたが、内心では別のことを考えていた。眠れるようになった。それで十分ではないか。
「あなたはここが終わりだと思っているんでしょう」医師は続けた。「多くの患者さんがそう考えます。でも、眠ることができるようになるのは、本当の始まりに過ぎません」
「始まり、ですか」
「体が眠りを取り戻すと、人は初めて、なぜ自分が眠れなくなったのかに気づき始めます」医師は静かに説明した。「その問いから逃げるか、向き合うか。そこが分かれ道になる。一週間で眠りは戻りますが、人生の眠りから目覚めるには、もっと時間がかかります」
佐藤は窓の外を見た。八日目の朝日は、これまでと何も変わらないように見えた。だが確かに、何かが変わり始めていた。体の中で。心の中で。
「次は何をすればいいのか」佐藤は問いかけた。
医師は処方箋を書き始めた。それは薬ではなく、別の何かだった。
「一週間、夜間に外に出てください。決まった時間に。空を見つめるだけでいい。あなたの夜はまだ、本当の夜を知らないのです」
続きはまもなく
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