第4話
軌道修正のループ
「柔軟に軌道修正できる」という言葉が、その後も何度も私の頭に浮かんだ。
帰宅後、パソコンで新NISAの仕組みを改めて調べてみた。成長投資枠と成長配当枠。年間360万円の非課税枠。ロールオーバーの仕組み。数字を追っていくうちに、これまでぼんやり見ていた制度の輪郭が少しずつ鮮明になっていく。
だが、制度を理解することと、自分にとって何が必要かを知ることは、別の問題だった。
転職の話は今も頭から離れない。市場価値を磨きたいという気持ちと、現在の安定を手放したくない気持ちが、私の中で常に綱引きをしていた。給与が下がれば、当然、投資に回せる余裕も減る。逆に今の会社に残れば、毎月の積立はできるかもしれないが、5年後10年後の自分の市場価値は何になっているのか。
そこで思い出したのが、田中の言葉だった。今すぐ全てを決める必要はない。今の時点で、自分に何が必要かを問う。その繰り返し。
だとすれば、今この瞬間、私に最も必要なことは何か。
翌朝、私は転職エージェントに登録した。決断ではなく、情報を集めるための行動だ。求人票を眺め、自分に応募資格があるのか、給与水準はどうなのか。同時に、現在の部門で昇進の可能性はあるのか、上司に相談してみた。
一週間後、複数の選択肢が机の上に並んでいた。転職も、留任も、異動も。どれかを選べば人生が一直線に進むわけではなく、どの選択をしても、来年また同じ問いが現れるのだろう。
月の中盤、私は新NISAの口座を開設することにした。額は小さくていい。毎月5万円。その金額自体より、「今の自分が選べる最良の形を試してみる」という行為そのものが大切な気がした。
田中からのメールが届いたのは、それからしばらく後のことだ。
「新NISAを始めたなら、次は自分の現在地を地図に落としてみませんか。キャリア、家族計画、健康、人間関係。あなたの人生に『非課税枠』は他にもあるはずです」
続きはまもなく
目次