第8話
第8話 相棒との距離
部長の言葉は途中で止まったが、高橋には既に想像がついていた。他部署からの引き合い。AIシステムの導入を望む声。そしておそらく、自分たちのチームがどのように使いこなしたのかについて、説明を求められるということだろう。
翌週、営業企画部と経理部の担当者が、営業事務チームを訪ねてきた。高橋たちが実際にAIとやり取りする様子を見学したいというのだ。
いつものように、高橋が案件の背景を説明し始めた。「この顧客については、過去のやり取りから信用度を重視する傾向があります。提案時には、金額よりも実績を」と、AIに入力した理由まで丁寧に伝える。AIからの提案に対して、「この部分は現場判断が必要なので」と条件を付ける。
見学者たちは、高橋たちのやり取りをじっと見つめていた。その表情は、最初の懐疑的なものではなく、何かを認識しようとする真摯なものに変わっていた。
見学が終わった後、経理部の課長が言った。「自動化だと思ってました。でも君たちがしてるのは、AIに『教える』ことなんですね」
高橋は答えた。「正確には、AIに説明することで、自分たちが学んでいるような気がします」
その夜、高橋は机の前で立ち止まった。窓の外は、いつもと変わらないオフィスビルの夜景だ。AIシステムの導入は、当初の目的である業務効率化をもたらしたのだろう。数字で表れる成果もある。
だが、それ以上に大切なものが生まれていた。仕事の意味を問い直す習慣。チーム内での対話。そして、道具に使われるのではなく、道具を使い手こなすことの手ごたえ。
AIは相棒ではなく、鏡だったのかもしれない。自分たちの仕事ぶりを映し出し、改めて考え直させてくれる、そういった存在。
来月、全社での導入が決まるという。高橋たちが何をしたか、その詳細を他部署にも伝える番が来たのだ。効率化のノウハウではなく、AIとの向き合い方そのものを。
高橋は、ゆっくりとパソコンを閉じた。明日も、相棒との対話は続く。
(完)
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