第3話
引き算の日常 第3話 選択肢の重さ
本棚だった。
背表紙がぎっしり詰まった本棚を前に、同じことを繰り返すのか。セーターの時と同じ葛藤が蘇った。「いつか読むかもしれない」という言葉が浮かぶ。5年前に買った自己啓発本。流行った推理小説。もらったけど読まない詩集。
手に取るたびに感じるのは、罪悪感ではなく、別の感情だ。重さだ。
部屋を見渡すと、本棚は壁の大部分を占めている。本を持つことが教養だと思ってた時期がある。積み上げられた本の冊数が、自分の価値だと信じてた。でも、実際に読んだのはいくつか。読み終わってから、もう一度手に取った本は。
一冊、引き抜いた。買った当時は興奮していた。帯には「人生が変わる」と書いてある。が、3ページで止まっている。本自体が悪いわけじゃない。自分が、その本を必要としなかったんだろう。
夜中の作業は思ったより時間がかかった。あの本は?この本は?の繰り返し。セーターの時は20枚を5枚に減らした。本は、どこまで減らすのか。基準が曖昧だった。
そこで思いついた。「本当に、もう一度読みたいと思ったことがあるか」という問い。すると、スッと判断できた。手放す本が決まっていく。
明け方まで作業をして、本棚の前に立った。以前は、隙間なくぎっしりだった。今は、余白がある。本の背が見やすくなり、一冊ずつが主張するように立っている。
出勤前、その本棚を眺めた。選ぶことの楽さが、ここにもある。でも、別の問題が浮かんだ。
リビングの。積み重なった書類。封を開けてない郵便物。いつか整理しようと思ってた、もらいものの紙袋。
そこまで来ると、気づき始めた。物を減らすことじゃなくて、何か、もっと大きなことが起こってるんじゃないか。
帰宅して、そのリビングの片隅を見つめた。触るのが怖かった。書類と向き合うことは、決断を迫られることだから。
続きはまもなく
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