スポーツ推し部屋

4/4

第4話

異なる目線の交差点

アニメーション学科の学生、岡田との約束は翌週の木曜日に決まった。研究会の集まる大学の工房棟へ向かう道すがら、主人公は自分の立場について考え続けていた。

スポーツについて語ることは得意だ。筋肉の動きの原理、競技ルール、実際の試合での駆け引き。そうした知識を整理して発信することが、ここ数ヶ月のルーティンになっていた。

だがアニメの話となると、主人公は素人である。動画の枚数、色彩設計、時間軸の制約。そもそも「作られた動き」と「自然な動き」をどう区別するのか、明確な答えを持たない。

工房に入ると、岡田を含む4人が迎えてくれた。机の上には、キャプチャ画像とスケッチが積み重ねられている。

「こちらが問い合わせてたスポーツ側の視点の人です」岡田が紹介する。

別の学生が身を乗り出した。「実は僕たち、ずっと迷ってたんです。アニメーターって、実在しない動きを想像で描くんですけど、スポーツ動作ってそこって重要じゃないですか。目指すのは『正確さ』なのか『見栄えのよさ』なのか。その答えが違う分野の人の目にはどう映るのか、知りたくて」

主人公は深く考えずに答えた。「スポーツの世界では、正確さと見栄えって対立しない時もあります。正しい動きって、実は一番効率的で、だから一番美しく見えることが多い」

別の学生がスケッチを指差した。「でも、こういう場合はどうですか。完全に正確な軌道だと、人間の目には『硬い』と感じる。だから少しだけ曲線をつけるんです」

主人公は身を乗り出し、その線を見つめた。スポーツの知識だけでは判断できない領域がそこにあった。同時に、スポーツ経験者だからこそ気づける違和感もあるはずだ。

「相互参照が必要なのかもしれません」主人公は呟いた。「スポーツ側が『ここは実際こう動く』と指摘して、それを受けてアニメ側が『その上で、表現として何を選ぶか』を考える。その往復の中でしか、答えは見つからないと思います」

いくつかの頷きが返ってきた。

岡田が提案した。「月1回、こういう座談会やってみませんか。僕たちとスポーツ視点の人が対話する形で」

主人公は一瞬躊躇した。SNSでの発信と違い、対面での議論は自分の不確かさを露呈させる。だがその不確かさこそが、実は必要なのではないかという直感が、返事を促した。

「やってみましょう。ただ、僕も学び手という立場で来させてもらいたいんですが」

スポーツ専門家としてのアカウントが、いつの間にか別の誰かになろうとしていた。その変化を、主人公はまだ言語化できていない。

続きはまもなく

目次

コメント