第8話
第8話 台所は、続く
明日の献立を考えながら、ふと気づいた。
最初、自炊を続けるコツは何かと問い始めたとき、自分は「正しいやり方」を求めていた。レシピサイトを開き、効率的な調理法を探し、完璧な味を目指していた。でも、それでは続かなかった。
いつからか、問い方が変わっていた。
「今日の人参は、昨日と違うか」「この味噌汁で足りないのは何か」「手を止めて考える時間は、無駄ではないか」
そんなふうに、毎日の小さな迷いの中で立ち止まるようになった。立ち止まるたびに、何かが見えてくる。台所の時間が、少しずつ自分のものになっていくのを感じた。
メモ帳を閉じて、窓の外を見た。明日の朝も、同じ台所に立つ。同じ味噌汁を作るのかもしれない。でも、その過程は二度と同じにはならない。気温も違う。野菜も違う。自分の気分も違う。
そのすべての違いを受け入れて、毎日ちょっと工夫してみる。時には失敗して、また試してみる。その繰り返しの中で、「続ける」という行為が意味を持つのだと思った。
完璧な食卓ではなく、迷いながらも向き合い続ける食卓。母親が残してくれたメモも、自分が書いているメモも、そういう誰かの日々を支えるためのものなのだろう。
ペンをメモ帳に置いた。明日、台所に立つとき、今日書いたページを見返すことがあるだろうか。あるいは、忘れてしまうかもしれない。でも、その忘れたことさえも、また新しい問いに変わっていくのだと思う。
台所は、静かに続いていく。
(完)
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