第7話
味噌汁の湯気 第7話 手書きのリズム
ペン先が紙に触れた瞬間、音がした。か、と小さく。その音に後押しされるように、文字が流れ始める。
「人参の切り方ひとつで、火の通りが変わる。今日は少し厚めに切ってみた。理由は、昨日の味噌汁が少し物足りなかったから。」
そう書いて、手を止めた。自分が何を書いているのか改めて考える。これはレシピではない。記録でもない。むしろ、迷いながら前に進んできた軌跡だ。
台所の時間は、いつも同じではない。今朝の人参は昨日の人参ではないし、自分の気分も違う。その小さな違いに気づいて、少しだけ何かを変えてみる。そのくり返しが、毎日の食卓を支えているのだと、最近ようやく腑に落ちた。
メモ帳のページが進んでいく。書きながら思う。母親がメモを残さなかったら、自分はどうしていたか。おそらく、同じ失敗をくり返していたのだろう。でも、あの一行があったから、立ち止まることができた。そして、その立ち止まりから、新しい問い方が始まった。
もしかして、自分が今書いているこのメモも、誰かの立ち止まりになるのかもしれない。
その可能性を思うと、ペンを握る手に少しだけ力が入った。完璧な言葉である必要はない。むしろ、迷いの痕跡がたくさん残っているメモの方が、読む誰かにとっては親切なのではないだろうか。
ページをめくる。明日の献立について考え始める。
続きはまもなく
目次