余白の時間

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第8話

第8話 選択の先に

図書館の棚の前に立つと、思ったより多くの本が並んでいた。ものを減らすこと、シンプルに暮らすこと、人生を整理することについて書かれた本たちだ。田中は一冊手に取り、別の一冊に目を移した。どれも説得力がある。どれも違うことを言っている。

結局のところ、他の誰かの答えは、自分の答えではないのかもしれない。

カフェに移った田中は、最初に電車で出会った本をもう一度開いた。著者が書いていたことを、今度は違う角度で読んでみた。大事なのはものを減らすことではなく、自分にとって何が本当に価値があるのかに向き合うことなのだ。

デスクに戻った時間の中で、田中は一つの行動に移した。ファイルを一枚一枚、手に取った。それを保管するのか、手放すのかではなく、まずはそれぞれを見つめた。思い出すプロジェクト、もう終わった仕事、いつか使うかもしれない資料。その向こう側には、それを判断する自分がいた。

完璧に整理することはできなかった。必要と不必要を完全に分ける線引きなど、存在しないのかもしれない。それでも、わずかなものを手放すと、デスクの一角に小さな空間が生まれた。白い机の表面が見える。

翌朝の電車の中で、田中は窓を見た。いつもの駅が流れていく。何も大きく変わってはいない。だが、カバンの中身は少し軽くなっていた。

本当の余白とは、物理的な空間ではなく、その空間をどう使うかを考える余裕のことなのだろう。疲れていた顔が、少し違って見えた。

(完)

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