第4話
迷いの正体
その夜、田中は改めて部屋を見回った。
調理器具だけではない。本棚には読み終わった本が詰まっている。クローゼットには、数年前の流行りで買った服が眠っている。机の引き出しには、使い切れていない文房具。キッチンの奥には、もらい物の食器。
「迷うこと自体が、その物との関係性を示している」
著者の言葉を思い出しながら、田中はそれらを一つずつ手に取ってみた。
本は? 積読のまま。迷う。
服は? サイズが合わなくなった。迷う。
文房具は? 別のペンで十分。迷う。
食器は? 今使っている分で足りている。迷う。
迷うことの意味が、少しずつ見えてきた気がする。迷いは、その物がすでに自分の生活から遠ざかっていることを示す信号なのだ。だからこそ、判断に時間がかかる。完全に必要のないものなら、むしろ迷わずに手放せるのではないだろうか。
しかし、別の疑問も浮かぶ。なぜ、そのような物をこんなに持っているのか。
田中は、ベッドに仰向けに寝転んだ。天井を眺めながら考えた。これらの物は、すべて「いつか使うかもしれない」という予測で集められたものだ。将来の自分に備えるために。完璧さを求めて。何かに備えるために。
本の著者は、物を減らすことで人生が変わったと書いていた。でも、それは物を捨てることが目的ではなく、なぜ自分がそれを持っているのかという問いを続けることが、本当の変化なのではないだろうか。
明日の朝、田中は会社に向かう電車の中で、その本の続きを読むことにした。今度は、著者がどのような基準で判断をしたのか、その先の話に進むつもりだ。
窓の外の景色が流れていく。いつもと変わらない通勤路。だが、その中で何かが少しずつ変わり始めている予感がした。
続きはまもなく
目次