眠りの処方箋

6/6

第6話

第6話 測定できない疲労

坂下の言葉が胸に刺さった。科学の枠を越える。その一言が、私がこの仕事を始めた理由を問い直させた。

翌日、私はBさんの自宅を訪ねた。彼女の同意のもと、簡易的な睡眠記録装置を貸し出し、毎朝、目覚めた時の感覚を日記に記してもらうことにしたのだ。脳波と主観のズレを追うために。

一週間後、Bさんから連絡があった。日記には、ほぼ毎晩、夢の断片が記されていた。色彩、会話、場面の急激な転換。それらは、脳波データの上では「正常なREM睡眠」として記録されていた。

しかし興味深いことに、Bさんが「よく眠れた」と記した朝と「疲れている」と記した朝では、夢の質が異なっていた。よく眠れた日の夢は、不安定だが、どこか物語として完結していた。一方、疲れた日の夢は、繰り返される。同じ場面が何度も現れ、進展しないまま朝を迎えるのだという。

私は坂下にこの記録を持ち込んだ。彼女は黙ってそれを読んだ後、こう言った。

「夢の『内容』が睡眠の質を決めているのではなくて、脳が夢を通じて何かを『処理しきれるか』が関係しているのかもしれない。」

「つまり」私は続けた。「患者が訴える疲労感は、脳波には映らない、別の層で起きている。」

坂下は頷いた。「もしそうなら、現在の睡眠検査は、本当に患者を助けているのか、という問題が生じる。」

その時、病院の別の部屋から、叫び声のような声が聞こえた。患者の夜間譫妄だろう。Bさんのような慢性的な睡眠不足の先には、こうした症状も潜んでいるのだろう。

私たちが測定しているのは、本当に「睡眠」なのか。それとも、睡眠という現象のごく一部に過ぎないのか。その疑問は、今、私の中で確実に形を持ち始めていた。

続きはまもなく

目次

コメント