眠りの処方箋

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第5話

測定されない時間

「もし患者の夢見が、単なる副産物ではなく、睡眠の質を左右する何かだとしたら」

坂下は顔を上げた。彼女の机には、睡眠ポリグラフの波形が何十枚も積み重なっていた。

「夢ね」彼女は少し笑った。「古い問題だ。REM睡眠中に見る、とは言われているけれど、なぜ人間が夢を見る必要があるのか、医学はまだ答えていない。脳が記憶を整理している、という仮説もあるが、証明はできていない」

「Bさんの場合」と私は言った。「検査では正常な睡眠段階を示している。脳波も呼吸も、すべてが教科書通りだ。なのに本人は疲れていると言う。唯一の手がかりが、夢を覚えているという報告だ」

坂下は机の上の波形を指した。「これを見て。ここは正常なREM睡眠の波形。でも同じREM睡眠でも、個人差がある。振幅、周期、覚醒の直前の変化。すべてが微妙に異なる。もしかして、その微妙な違いが、『夢を思い出す』という体験につながっているのかもしれない」

「それなら」私は身を乗り出した。「被験者の主観的な『眠った感覚』と、その時の脳波パターンを詳細に照合できれば」

「数値化できない何かが見えるかもしれない、と」坂下が続けた。「そうだね。でもそれは、科学の枠を越えているかもしれない。測定の対象は、すべて客観的であるべき、という前提を揺るがす」

二人の間に沈黙が落ちた。窓の外では、夜勤から戻る医療スタッフが行き交っていた。

その時、坂下の表情が変わった。「やってみようか」彼女は言った。「新しい観察法を。患者に眠りながら自分の感覚を言葉にしてもらう。目覚めた直後ではなく、半ば眠ったままの状態で。その言葉と脳波を同時記録する」

「それは、測定できるのか」

「できるかどうかより、試す価値があるかどうか、だ」坂下は答えた。「君のBさんと、何人か被験者になってもらえるなら、月内に開始できる」

その晩、私はBさんに電話した。「新しい試験があります。ただし、これまでとは違う形です」と、慎重に説明した。

電話の向こうで、Bさんの呼吸が落ち着いたように聞こえた。「やってみます」と彼は言った。「自分の体のことが、少しでも分かるなら」

続きはまもなく

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