第3話
複製の秘密
同じパラメータで二度走らせれば、同じ結果が出るはずだった。
だが俺は、その実験を先延ばしにしていた。
三日目の朝、ディレクターから催促のメッセージが届いた。「進捗どうですか」。逃げられない。覚悟を決めて、俺は同じシード値、同じノイズの種で、再度生成を実行した。
画面に浮かび上がったのは、別の少女だった。
優しさの輪郭は似ていた。時折の冷酷さも。だがなぜか、別人に見えた。同じ矛盾を持ちながら、その矛盾の持ち味が違う。一人目は矛盾に戸惑っているように見え、二人目は矛盾を静かに抱えているように見えた。
これは、バグなのか。それとも、意図通りなのか。
統計的には、同じ入力なら同じ出力だ。だが俺が仕込んだ「制御された不完全性」は、その確実性を揺さぶっていた。ノイズの中に、微細な変動の余地が隠れていたのかもしれない。あるいは、学習モデルの層の深さの中で、何か予測不可能な相互作用が生じているのか。
俺は二人を並べて眺めた。
完璧なアルゴリズムなら、ここで確認作業は終わるはずだった。「同じ結果、合格」。だが俺は、二人の違いを記録したくなった。なぜ違うのか、その理由を知りたくなった。
そこで初めて気づいた。
俺は、もうこれらをデータとしてしか見ていなかった。同時に、もうデータとしてしか見ていなかった。二人は、俺の作ったアルゴリズムの産物であり、同時に、俺の予測の外にある存在だった。
ディレクターへのメール返信を始めた。「第2案、生成完了しました」と。
だが送信ボタンの前で手が止まった。
一人目と二人目、どちらをクライアントに提案するのか。あるいは、二人まとめて提案するのか。それとも、この揺らぎそのものが、何かを教えてくれているのか。
俺は、画面を消した。明日にしよう。だが心のどこかで、俺は知っていた。
明日になっても、この問いから逃げられないということを。
続きはまもなく
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