引き算の日々

7/7

第7話

第7話 手放せない理由

え、行動していたはずだった。

その充電ケーブルは、単なる物ではなかった。それは、かつての自分そのものだった。

スマートフォンを手放した時、自分は何かを失ったと感じていた。だが、三ヶ月経った今、その感覚は薄れていた。代わりに得たものが、はっきりと見えていた。朝日に目覚める心地よさ。人と顔を合わせて話す時間の価値。退屈さの中で浮かぶ、思いがけない考え。

しかし失った側面も、確かにあった。それは悪いものばかりではなかった。瞬時に情報を得る喜び。遠く離れた誰かとつながる感覚。時間が埋め尽くされることで、考えなくて済んだ不安。

ケーブルを握りながら、自分は何をしようとしているのか、改めて考えた。引き算の日々は、単なる削ぎ落としではなく、何かを選び直す作業なのではないか。

翌日、そのケーブルは引き出しに戻された。捨てるのではなく、一度は置いておくことにした。完全に手放す時が来るまで。あるいは、その時は来ないかもしれない。

だが、それでいい気がした。

部屋を出て、駅に向かった。この街で、新しい何かを見つけるために。あるいは、かつて見落としていた何かに気づくために。スマートフォンのない手には、風が心地よく感じられた。

続きはまもなく

目次

コメント