引き算の日々

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第6話

手放せない何か

に気づいた。

スマートフォンを手放してから、三ヶ月が経っていた。部屋の片隅、本棚の下の引き出しの中。そこに、充電ケーブルが二本、イヤフォンが一つ、残されていた。

捨てるつもりで、何度も手を伸ばした。だが、その度に手が止まった。なぜか。理由を言葉にするのは難しい。

日曜の昼下がり、部屋を整理していた。本は最小限に。衣類も必要な分だけ。机の上に置く物も厳選した。生活から余分な物を取り除く。その作業は気持ちがいい。達成感すら覚える。

だが、その充電ケーブルだけは、どうしても触れなかった。

その夜、友人から連絡が来た。実家に帰省する予定について、共有したい情報があるという。以前なら、スマートフォンで数往復のメッセージが行き交う場面だ。今は、公衆電話から友人に電話した。声を聞くのは、意外に新鮮だった。十分で済むやり取りが、スマートフォンなら三十分かかっていただろう。

電話を切った後、その充電ケーブルのことを思い出した。

なぜ、まだ手放せないのか。もう必要ないはずなのに。

部屋に戻り、引き出しを開けた。ケーブルは、そこにあった。手に取ると、かつての生活が一瞬、よみがえった。通知音。無意識のスワイプ。時間の感覚の喪失。その全てが、詰まっているような気がした。

しかし、同時に別の感覚も湧き上がった。スマートフォンがあった頃も、自分は生きていた。その時間の中で、確かに何かを感じ、考えていた。完全に否定する気にはなれない。

ケーブルを引き出しに戻した。

明日にしよう。明日、また考えればいい。そう思った。

続きはまもなく

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