引き算の日々

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第3話

見えるもの、見えないもの

週が進むにつれて、変化は予想外の場所に現れた。

金曜の夜、会社の飲み会に誘われた。いつもなら参加を迷い、スマートフォンで天気を確認したり、時間を潰したりしながら支度をしていたはずだ。だが今回は違った。返事は即座だった。行くのか行かないのか、その判断が妙にはっきりしていたのだ。

居酒屋の席で、同僚たちの話を聞いていると、不思議な感覚に気づく。以前なら、会話の合間にスマートフォンを見ながら、その場にいるようで別の場所にもいた。二重の意識。だが今は、ここにしかいない。その人の言葉が、その人の表情が、以前より鮮明に入ってくる。

「最近、何か変わった?」と聞かれた。何と答えるべきか迷った。スマートフォンを手放したことは、まだ言っていない。だから曖昧に笑って、仕事が忙しいだけだと返した。だが内心は戸惑っていた。自分の中で何かが整理されていく感覚。それは良いことなのか、単に気持ちの問題なのか。

帰路の電車の中で、改めて気づく。削ぎ落とすことで見えてくるものがあるのなら、同時に見えなくなるものもあるのではないか。世界の広がり。情報の流れ。その中に自分がどう在るべきか。

部屋に帰ると、本棚の前で立ち止まった。積ん読本の背表紙を眺める。その中の一冊に、不意に手が伸びた。まだ読みたくなかったはずなのに。ページを開いて、最初の段落を読む。

何かが変わり始めている。だがそれが何なのか、まだはっきり見えていない。

続きはまもなく

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