棚卸しの先にあるもの

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第5話

視点の重なり

朝、オフィスに着くと上司はもう席にいた。コーヒーを片手に、資料を広げている。昨晩のメールから、ほとんど眠っていない。だが緊張ではなく、別の感覚が自分を満たしていた。

「おはよう。昨日のメール、見た?」

上司の声は淡々としていた。ただ、その後の言葉は予想外だった。

「お前が過去の案件でどう動いたか、クライアント先の評価をもらった。実は、この案件、初期段階からお前が関わるべきだったんだ」

椅子に座ると、上司は一つの資料を指した。そこには自分の過去のプロジェクトの成果が、数字ではなく、別の形でまとめられていた。スケジュール管理の工夫。顧客との信頼構築のプロセス。問題発生時の対応パターン。

自分で棚卸ししたスキルシートは、実は断片に過ぎなかったのだ。

「これ、誰が...」

「人事に頼んで、過去の関係者の評価を集めてもらった。お前自身の認識と、周囲の見方を比べてみたかったんだ」

上司の机の上には、自分についての複数の視点が重なっていた。それは完全に一致するわけではない。むしろ、ずれていた。自分が「できる」と思っていることと、他者が「価値を感じている」ことは、必ずしも同じではなかった。

昨晩、駅のベンチで考えたことが、ここにもあった。親への視点。後輩への視点。クライアントの視点。そして、上司の視点。

キャリアの停滞と感じていた状態は、実は自分の見方が狭くなっていたせいではないか。そう思い始めていた。

「今回の案件、新しいメンバーも入る。お前が核になる。どう思う?」

返答する前に、不意に別の問いが浮かんだ。このチャンスは、自分のキャリアを進めるためなのか、それとも別の理由があるのか。上司がなぜ、わざわざ評価を集めたのか。その意図を、自分はまだ完全に理解していない。

「やります」と答えながらも、自分の中に新しい問いが積み重なっていくのを感じた。見えてきたものがある一方で、見えていないものもまた増えているのだ。

続きはまもなく

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