棚卸しの先にあるもの

2/2

第2話

見えていなかった軌跡

パソコンの画面を眺めていると、ふと気づくことがあった。これまで自分は「できていないこと」ばかりに目を向けていたのではないか。昇進できていない、新しい案件が来ない、同期に抜かされている。そうした「欠けているもの」に意識が固定されていて、すでに手の中にあるものが見えていなかったのだ。

シートを眺めていると、母からのメールが届いた。父の体調について、また年末に実家に帰ってほしいという内容だった。返信しながら、ふと思った。親に対しても、自分は同じことをしていないだろうか。親の期待に応えられていない部分に目を向けて、自分が親に何を与えてきたか、どう貢献してきたか、そういう視点を持たずにいたかもしれない。

月曜日の朝礼で、上司が新しいプロジェクトのメンバー構成を発表した。自分の名前は呼ばれなかった。以前なら、それで終わっていただろう。だが今、ちょっと違う感覚があった。呼ばれなかった理由を考える前に、自分が過去のプロジェクトで何を成し遂げたのか、その経験が今、どこで活かせるのか、そう問い直す余地があるのではないか。

昼休み、同じ部署の後輩が相談に来た。クライアント対応でトラブルが生じているという。説明を聞き、その背景にある要望の本質を汲み取り、いくつかの対応案を一緒に考えた。後輩の顔が和らいでいくのを見ていると、自分のスキルシートには書かなかった、もう一つの価値に気づいた気がした。

それは「経験を言葉にして、他者に伝える力」なのかもしれない。土曜日に棚卸しをしたとき、言語化できなかったものが、ここにはある。帰宅後、シートを開き、新しい行を追加した。その欄には、何と書くべきか、まだ決まっていない。ただ、今はそのままにしておくことにした。

続きはまもなく

目次

コメント