第1話
第一話 整理整頓
土曜日の午後、私は自宅の机の前に向かい、エクセルのシートを開いていた。「スキルの棚卸し」という言葉が、先週の研修資料に出ていたのだ。正直なところ、最初は形式的な印象を受けていた。会社が従業員に実施させるタイプの、ありきたりな自己啓発ツール。だが先日、退職する同期が淡々とそれを実行している姿を見かけて、何か考えさせられるものがあった。
改めて自分のキャリアを眺めると、ここ数年は停滞感が拭えなかった。昇進もなく、新しい案件も減り、毎日が繰り返しの連続に感じていた。鏡を見るたびに、自分が何者であるのか曖昧になっているような気がしていたのだ。
シートに「技術スキル」と最初の行を打ち込んだ。思いつくままに、過去の経験を記入していく。想像していた以上に、細かなスキルが積み重なっていることに気づいた。プロジェクト管理、資料作成、それから意外かもしれないが、チーム内での調整役としての役割も立派なスキルだ。
一時間ほど続けていると、ふと手が止まった。これらのスキルは、そもそも誰のためのものなのだろうか。会社のため?それとも自分自身のため?その疑問を抱きながらも、私は続けた。数字には表れない、対人関係での信頼の構築、クライアントの要望を読み取る力、問題が生じたときの対応力...あらためて列挙してみると、自分は無意識のうちに、かなり多くのことを学んできたのだった。
パソコンの画面を眺めていると、窓の外では夕焼けが深くなっていた。明日、このリストがどうなるのか、自分の人生にどう作用していくのかは、まだ分からない。だが少なくとも今この瞬間は、自分がゼロではないということが、確実に感じられた。
続きはまもなく
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