余白の時間

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第5話

第5話 循環の中で

米袋を手に取ると、重みが想像以上だった。五キロはあろうか。玄関に置かれた状態で、すでに何時間か経っているのだろう。袋には手書きの文字で『召し上がってください』と書かれていた。

隣の女性の名前はまだ知らない。ただ、彼女の筆跡だけが、ここに確実に存在している。

その夜、私は米を炊いた。都市にいた頃は、毎日同じブランドの米を買っていた。銘柄を選ぶことはあっても、誰が作ったのかまで考えたことはなかった。しかし、この米を研ぐとき、水が透明になっていくのをぼんやり眺めていて、ふと気づいた。時間をかけるということの気持ちよさを。

炊き立ての米の香りが家の中に満ちた。トマトとともに、朝もらった野菜で簡単な食事を作る。夜の8時。都市では、まだ誰かの仕事のメール通知が鳴っている時間帯だろう。ここでは、虫の声だけが聞こえている。

テーブルに座ると、ふと思った。私は何を減らそうとしていたのか。物だけではなく、その先にある何かを求めていたのではないか。完璧さの追求。効率の最大化。そうした『べき』の積み重ねからの解放。

それは、誰かが作ったものを、名前も知らずに受け取るような、そういう素朴な流れの中にあるのかもしれない。

翌朝、私は隣の敷地を見た。女性の姿は見えなかったが、朝日が野菜畑に当たっている。規則的に並んだ列の中で、ひとつひとつが微妙に異なる形をしている。その不完全さが、ここでは完全性よりも真実に見えた。

ポストに手紙を入れることにした。『ありがとうございます。今度、お邪魔させてもいいでしょうか』と。簡潔に、飾らずに。

続きはまもなく

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