第5話
返信の重さ
スマホの画面を何度も消した。あの人からのメッセージは既読のままだ。
「今度の配信ライブ、また一緒に見ませんか」
返信は簡単だ。絵文字をつけて「いいですね」と送るだけで済む。実際、推し活のコミュニティではそれが標準的なやり取りだ。だが、キーボードに指を置く前に、なぜか立ち止まってしまう。
友人の言葉が引っ掛かっていた。「でも、その人のこと、本当には知らないよね」。その通りだ。プロフィール画像、投稿されたテキスト、推し活への姿勢。それらは確かに相手の一面を映しているかもしれないが、全体ではない。むしろ、意識的に選別された側面だけが見えている。推し活の公式アカウントと同じように。
では、なぜ返信をためらうのか。それは、返信することで相手が確定してしまうからではないか。今は曖昧なままだ。あの人は画面の向こうの存在で、自分と同じく推しを好きな誰かに過ぎない。その曖昧さの中には、無限の可能性がある。親切な人かもしれないし、単なる推し活の同志かもしれない。
しかし返信すれば、その関係に方向性が生まれる。頻繁にやり取りするようになるかもしれない。あるいは、一度限りのメッセージ交換に終わるかもしれない。いずれにせよ、現在の不確実さは失われる。
夜更けまで、スマホを手に考えた。推し活とは、本来はこういうものなのか。見知らぬ者同士が、同じ推しへの想いを通じて緩やかに繋がる。その繋がりの中で、相手について知ろうとしたり、知られたりしたりする。あるいは、知らないままでいる選択肢もある。
やがて、指が動いた。メッセージ欄が開く。カーソルは点滅している。返信の内容ではなく、返信そのものが、これからの何かを決める気がした。画面を照らす光が、顔に当たった。
続きはまもなく
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