第4話
ノートの重さ
先輩は、どうしてあのノートとペンを、彩に渡したのだろう。
読書メモの方法を教えるだけなら、言葉だけで足りたはずだ。なのに、新しいノート、手になじむペン。まるで、彩がそれを必要としていることを、あらかじめ知っていたかのように。
彩は本を膝に乗せたまま、ノートを見つめた。すでに三ページ分、メモが埋まっている。「なぜ、そこで?」に始まり、「この会話、聞いたことがある」「ここまでの伏線?」「主人公の気持ちがわからない」——心に引っかかったすべてが、言葉になっていた。
それは、記録ではなく、対話の痕跡だった。
図書館の空気が、午後の光に染まりかけていた。彩の隣のテーブルには、別の学生たちが教科書を広げている。彼らは、ひたすら下線を引いている。その手つきは機械的で、心ここにあらずという風情だった。
彩は、自分のノートとペンを改めて握った。これは、あの先輩も通ってきた道なのだ。つまらないと感じることから、面白さの基準が生まれる。その積み重ねが、やがて何かになっていく——
ふと、彩の視界に入ったのは、図書館の奥の書架だった。その影から、誰かが彩のことを見ている気がした。
確認しようと顔を上げた時、その人影は消えていた。
ただ、彩の手の中のノートだけが、確かに存在していた。まるで、それが次への扉であるかのように。
続きはまもなく
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