第1話
第一話 段ボール箱との対話
引っ越し業者の見積もり電話を終えたとき、私は不意に立ち止まった。荷物を数えるのではなく、それぞれの品物と向き合うことの大切さに気づいたのだ。
今まで何度も引っ越しを経験してきたが、いつも同じパターンだった。とにかく詰める。運ぶ。広げる。その繰り返しで、本当に必要なものが何かなんて考えたことがない。でも今回は違うと決めた。
居間に座り、目に映るものを一つずつ見つめる。本棚の本は、最後に手に取ったのはいつだろう。台所の調理器具は、本当に三つも必要だろうか。そうしていると、自分がどれほど無意識に物を溜め込んでいたかに気づく。
友人は「引っ越しは人生のリセットボタン」と言っていた。その言葉の意味がようやく分かる気がした。新しい部屋に入る前に、自分の中身を整理しておくということ。それは物理的な整理整頓ではなく、もっと根本的な何かなのだ。
段ボール箱を前に、私は小さなノートを開いた。どんなものを、どのくらい持っていくか。そしてそれらが、新しい生活でどんな役割を果たすのか。一つずつ、丁寧に記していく。
この作業は思ったより時間がかかった。だが焦る気持ちはなかった。むしろ、この過程そのものが大事な何かを教えてくれているような気がしたのだ。引っ越しは単なる移動ではなく、自分と改めて出会い直す時間なのだと。
続きはまもなく
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