色の階段を上る

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第1話

第一話 灰色のスライド

企画部から返ってきたスライドを見て、瑠衣は目を疑った。自分で作ったUI案に、ところどころ色が塗り直されている。淡いグレーだった背景はグレーのままだが、テキストの色が微妙に変わっていた。

「先輩、なんで色を変えたんですか?」

席の隣の田中先輩は、画面を指差しながら説明してくれた。

「ここ、このテキスト、元々何色だった?」

「黒です」

「黒でいいと思った理由は?」

瑠衣は言葉に詰まった。特に深く考えていなかった。読みやすいからだと思っていたが、言葉にすると幼稚に聞こえた。

田中先輩は、スライドを90度回転させて見せた。

「背景が淡いグレーでしょ。その上に真っ黒なテキストを置くと、コントラストが強すぎて、目が疲れるんだ。実際のユーザーはスマホで見るわけだし、照明の加減で背景色も変わる。だから、ここは濃いグレーにしたんだよ」

改めて見ると、その濃いグレーのテキストは、黒よりもずっと落ち着いて見えた。同時に、読みやすさも感じる。

「配色って、色を選ぶんじゃなくて、関係を作るんだ。この色、あの色、背景、光——全部がセットで効く」

瑠衣は手帳にメモを取った。黒のボールペンで。その瞬間、アイロニーに気づいて、思わず笑ってしまった。

「何笑ってんですか」

「いえ……色の話をしてるのに、私、黒いペンで書いてました」

田中先輩も笑った。

「そういうことだよ。配色の考え方なんて、難しく考えなくていい。理由があれば、どんな色だっていい。理由がなけりゃ、何色だって浮く。さあ、このスライド、他にもいろいろ変わってるから、一つずつ説明してやろう」

瑠衣は先輩の後ろで、スライドの色を眺めた。昨日までは、ただの「完成品」だと思っていたのに、今は全部が疑問符に見える。なぜその色?理由は?背景とのバランスは?

それは、つまらない仕事のように聞こえるかもしれないが、瑠衣には違った。色が理由を持って並ぶ様子が、こんなに面白いものだと知らなかった。

続きはまもなく

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