第2話
測定不可能なもの
水曜日の朝、部門長の田中が私たちを集めた。面談対策のワークショップだという。会議室には評価シートのコピーが積まれていた。
「皆さんの成果を、人事部が理解しやすい形にまとめましょう」と田中は言った。彼自身も基礎研究出身だが、今は管理職だ。その立場の葛藤が声に滲んでいた。
田中は実例を挙げ始めた。「論文一本では弱い。その論文が業界でどう引用されているか、将来の応用可能性はあるか、そういう『ストーリー』が必要です」。彼は言葉を選ぶように続けた。「嘘をつけとは言いません。ただ、価値を『翻訳』するんです」。
誰かが手を挙げた。「でも、研究の本当の価値は、まだ分からないものの中にあるのでは」。若い研究員の声だった。
田中は息をついた。「その通りです。基礎研究はそういう性質を持っている。ただ、今の評価制度は『今、ここで測定できるもの』しか見ない。それが限界なのか、必要悪なのか、私にも分かりません」。
彼は机に手をついた。「だから、皆さんに決めてもらいたい。自分たちの研究を、この制度の中で『伝える』ことに協力しますか。それとも、その限界を指摘することを優先しますか」。
会議室は静かになった。それは単なる面談対策ではなく、もっと大きな問いかけだった。科学者として、私たちは何を優先するのか。評価される側として、何ができるのか。
帰り際、田中が私に声をかけた。「君たちが何を選ぶか、私も見守っている」。その表情には、責任者としての疲労と、同じ立場の者としての連帯感が混在していた。
金曜日の面談まで、あと二日だ。
続きはまもなく
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