第2話
重力の影
会社に着いた佐藤は、すぐにセンサーデータの分析に取りかかった。
昨夜の電車内で集めた波形を、グラフ化してみる。予想通り、単純な振動ではなく、複雑に絡み合ったパターンが浮かび上がった。X軸、Y軸、Z軸——三つの方向のデータが、時々同期し、時々ずれる。
「これ、重力補正がバグってるのかな」
同僚の鈴木が、コーヒーを片手に覗き込んできた。
「加速度センサーって、下向きの重力を基準にしてるじゃん。電車が揺れると、その基準がぶれる。もしかして、センサーが重力の向きを見失ってるとか」
鈴木の指摘は的を射ていた。佐藤は、自分のスマホを机の上に置き、ゆっくり傾けてみた。加速度データがリアルタイムで変わる。今度は違う環境で、同じテストをしてみたくなった。
昼休み、ビルの地下駐車場に降りてみた。電車と違い、ここは静寂に包まれている。スマホを床に置いて、データを記録する。ノイズはほぼ消えた。やはり、振動が原因らしい。
では、なぜこんなことが起きるのか。
センサーが重力を感知する仕組みを、改めて考える。加速度計は、本来なら動きを測るものだ。でも物理的には、重力も加速度も見分けがつかない。だから、スマホは常に両方を混ぜて計測している。電車という揺動環境では、その混在が増幅されるのだろう。
佐藤は、モニターの前に戻った。データを眺めていると、規則性の中に、さらに細かいパターンが見え始めた。電車が加速する瞬間、センサーの反応に微妙なズレが生じている。
そこに、何かの秘密が隠れているような気がした。
夕方、鈴木に話しかけた。
「実際に電車に乗りながら、複数のスマホでデータを取ったら、面白い結果が出るかもしれない」
鈴木は首をかしげた。
「何が知りたいの?」
佐藤は、明確な答えをまだ持っていなかった。ただ、この現象の背後に、スマホと物理世界の関係を説く、より大きな謎があるような予感がしていた。
続きはまもなく
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