第2話
2時33分の来訪者
金曜日の朝。また2時33分に目が覚めた。
今週は毎晩だ。月曜から金曜まで、5日連続。同じ時刻に、同じ感覚。暗がりに誰かの気配。でも目を開けると部屋は空っぽ。
完璧な睡眠スコアと引き換えに、毎晩この儀式。そう考えると、気のせいじゃない気がしてきた。
スマホを手に取った。睡眠アプリが起動する。今日も100点。昨晩の睡眠データが表示されている。時間帯ごとのグラフ。深い眠りと浅い眠りの波形。それは見事に規則正しい。教科書的な睡眠曲線。人間が最も効率的に疲労を回復する、理想的なパターン。
ただ、一つ異常がある。2時30分から2時40分の区間だけ、波形がぐにゃりと歪んでいた。他の部分は綺麗な起伏なのに、その部分だけ。あたかも何かが記録を乱しているように。
アプリのコメント欄を見た。「睡眠中の軽い覚醒です。正常な現象です」と書かれていた。
正常。そう、正常なんだ。
なら、なぜこんなに気になるんだろう。
同期に連絡しようかと思ったが、何と言えばいいか分からない。「完璧な睡眠の代わりに毎晩2時33分に何かを感じるんですけど」——そんなことを言ったら、頭がおかしいと思われるだけだ。
仕事はうまくいっている。頭もクリアだし、イライラも消えた。睡眠の質が上がって、人生が良くなった。それは本当だ。
でも、誰かが立ってるような感覚。それも本当だ。
土曜日。推奨設定をもう一度確認してみた。室温、照度、白ノイズ、通知オフ。全部同じ設定。変わったことは何もない。
なのに、その夜も2時33分に目が覚めた。
今度は違う。気配だけじゃなく、何か音が聞こえた気がした。本当に微かな。まるで遠くから呼ばれてるような。でも目を開けた瞬間、消えた。
月曜日の朝。会社で鏡を見た。顔は疲れていない。むしろ生き生きしている。でも目の奥に、何か詰まったような感覚がある。
スマホの睡眠グラフを見ながら、考えた。
これ、本当に正常なのか。