締切の向こう側

4/4

第4話

判断の重さ

その夜、修正作業をしながら、僕はクライアントへの連絡内容を何度も推敲した。田中さんに指摘されるまで、自分がいかに判断を先送りしていたか気づかなかった。完璧な返答を待ち、責任を分散させようとしていた。

午後十時過ぎ、メールを送信した。対応可能な部分と、確認が必要な部分を明確に分け、明日の朝にはご返答できることを伝える内容だ。送ったあと、胸が高鳴った。恐れも感じた。この判断が間違っていたら。クライアントの反発を招いたら。

しかし同時に、それは当然のことではないか、と思った。完璧さを求めれば、締切は際限なく伸びる。それは逃げと同じだ。

翌朝、クライアントからの返信は早かった。対応ありがとうございます、という一文。僕はほっと息をついた。

やがて確認依頼した項目についても、クライアント側の都合で多少の遅延が出ることが判明した。結果的に、僕の判断は正しかった。

デスクに着くと、田中さんが声をかけた。

「昨日のメール、見たぞ。いい対応だった」

その言葉は、完璧さへの褒賞ではなく、選択と責任を引き受けたことへの認識だった。

それから僕は、締切に追われることは相変わらずだった。だが、その中で何度も判断を重ねることで、仕事の粒度が少しずつ変わっていった。完璧さを求める恐怖ではなく、自分の判断に責任を持つことが、意外と自分を解放することに気づき始めたのだ。

ただ、田中さんの一言はまだ完全には理解できていない部分があった。『その時点での最善』とは、本当にそれで満足してもいいのか。繰り返しの中で、その意味が深まっていく実感はあるのだが。

続きはまもなく

目次

コメント