第3話
選択と責任
昼休憩が終わり、午後の業務に戻った。デスクに座ると、修正依頼のメールが三件入っていた。クライアントからの急な変更要望だ。通常なら、その瞬間に焦燥感が襲ってくる。だが今日は違った。
田中さんの言葉が、僕の中で反響していた。完璧さではなく、その時点での最善。では、今この瞬間の最善とは何か。
僕は三件のメールを読み直した。優先順位をつけた。対応できるものと、確認が必要なものを分けた。そして田中さんのデスクに向かった。
「修正依頼が来たんですが、どう判断したらいいか相談したいです」
田中さんは画面を見て、頷いた。
「いいな。こういう判断が大事だ。で、君はどうしたい?」
そこで僕は言葉に詰まった。相談に来たのに、判断を委ねようとしていた自分に気づいた。
「これとこれは今夜中に対応できます。ただ、ここは明日の朝の確認が必要だと思います」
僕は自分の考えを述べた。田中さんは満足げに頷いた。
「その判断でいこう。クライアントに連絡して。君からな」
また僕は戸惑った。報告は田中さんがするものだと思っていた。
「でも、先輩から...」
「お前の判断だろ。お前が言うんだ。責任を持って」
田中さんの言葉は厳しかった。しかし同時に、何かが僕の中で変わった。完璧さへの恐怖ではなく、別の恐怖。選択したことに責任を持つことへの、本当の意味での怖さが見えた気がした。
その夜、修正作業をしながら僕は考えていた。締切に追われているのではなく、自分の選択から逃げていたのではないか。完璧さを求めるふりをして、実は決断から目を背けていたのではないか。
修正資料を完成させ、明朝の確認事項をまとめた。完璧ではない。だが、その時点での最善は尽くした。
メールを送信する前に、僕は一度、田中さんのオフィスの暗い窓を見た。誰もいない。締切の向こう側で、僕は何を見つけようとしているのか。まだ分からなかった。
続きはまもなく
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