第6話
ちょうどいい隙間
完璧な配置を一度決めたら、そこで終わりではなく、それは常に変わり続けるものなのだということ。
新しい部屋での暮らしが二ヶ月目に入ったとき、友人が遊びに来た。玄関を上がった瞬間、彼女は立ち止まった。
「何か変わった?」
そう聞かれて、私は自分がどこを指差したらいいのか迷った。昨日、本棚をほんの少し手前に寄せた。キッチンの調味料の順番を入れ替えた。窓際のクッションを移動させた。ひとつひとつは微細な変化。でも、その積み重ねが空気を変えているのだと感じていた。
「小さいことばかりなんだけど……」と説明しながら、ふと思った。前の部屋での自分は、こうした小さな調整を「失敗」と捉えていたのではないか。最初の配置が正解でないことが、不安だったのではないか。
友人はゆっくり部屋を歩いた。そして、ソファに腰を下ろして、こう言った。「住んでる感じがする。完成した部屋じゃなくて、今も誰かが使ってる部屋っていうか」。
その言葉が、ずっと引っかかっていた何かを少し解きほぐした。
夜、再度ノートを開く。これまでは「配置のルール」を書き留めていた。でも今、付け足そうとしているのは、ルールの例外についてだ。雨の日は部屋の湿度が上がるから、この棚の位置は変わる。月に一度は、全く違う配置で過ごす日を作ってみる。そういった『隙間』を意識的に残すこと。
まだ開けられていない段ボール箱たちは、相変わらず倉庫の奥にある。ある朝、それらの箱が何なのか、もう確認する必要がないのだと気づいた。それ自体が、この部屋に必要な「ちょうどいい隙間」なのだから。
ここでの暮らしも、これからずっと続く。その中で、まだ見つけていない工夫がいくつもあるはずだ。
続きはまもなく
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