第6話
ユーザーの顔
条件をつけるまでに、自分は初めて、ツールの使用規約に向き合った。
夜中に書き直すこと三度。「個人利用」「法人利用」「営利目的」の定義が、これほど曖昧だったことに驚いた。自分は、ツールを完成させることには熱心だったが、それをどう世界に出すかについては、ほとんど考えていなかったのだ。
朝六時に起きて、本業の打ち合わせに出た。プレゼン資料の修正依頼を受け、昼休みはそれに充てた。帰路、駅のベンチで件の企業のウェブサイトを眺めた。代表者の顔写真がある。自分と同年代に見える。どんな想いで、この企業を立ち上げたのだろう。
オフィスに戻り、その企業の創業背景について、プレスリリースを読んだ。前職は大手SIerだったらしい。「現場の声を無視した開発」への違和感が、独立のきっかけだと書かれていた。自分の道と、どこか重なる部分がある。
夜、返信が来ていた。
「月間五人程度が使っています。業務報告書の作成を自動化する目的で、御社のツールを使わせていただきたいです。営利目的ではなく、内部利用のみです。ご検討をお願いします。」
明確で、率直だ。相手もまた、信頼を積み重ねようとしている。そう感じた。
自分は、月額五百円の法人プランを作ることにした。それは収益化の第一歩というより、相手との関係の始まりだった。ツールの向こう側に、初めて、ユーザーの顔が見えた気がした。
続きはまもなく
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