第5話
最初の変動
『その後、どう?進めた?』
佐藤の問いかけに、田中は少しためらってから頷いた。『やってみました。千円ですけど』
『よかったな。で、どう?』
正直に答えるなら、田中は戸惑っている。金曜日の購入から三日間、アプリを開く回数は増えるばかりだ。基準価額の数字を見ては、上がった下がったと一喜一憂している自分に気づく。千円という金額は本当に小さいはずなのに、その動きが妙に気になる。
『不安です。毎日数字を確認してしまって』
佐藤は笑った。『それ、みんなそう。特に最初は。でもね、大事なのはここからだ』
『ここから?』
『そう。投資信託は、買ったら終わりじゃない。むしろ始まり。どうして基準価額が動くのか、なぜ自分は不安を感じるのか。そういうことを考え続けることが、次のステップへの道だ』
佐藤は席に戻ろうとして、ふと立ち止まった。『あ、そうだ。これからいろいろ質問が出てくると思う。その時は、調べるのもいいけど、判断基準を持つことが大事。何が正しいかじゃなくて、自分がどう考えるか。その癖をつけておくといい』
昼休みが終わり、午後の業務に戻った。しかし田中の頭は、佐藤の言葉を反芻していた。
買ったら終わりじゃない。確かに、そうかもしれない。自分の千円がどこで、どう働いているのか。それすら、まだ理解していないのではないか。
帰宅後、田中は金融ニュースサイトを開いた。市場全体の動きを知ることで、自分の投資信託の基準価額がなぜ変わるのかが見えてくるかもしれない。そして同時に、一つの疑問が浮かんだ。
信託報酬とは何か。正確には何を支払っているのか。その答えを求めて、さらに深く調べ始めた。
夜が更けていく。画面の向こう側で、金融の世界がゆっくりと、しかし確実に田中を引き込んでいっていた。
続きはまもなく
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