第4話
最初の一歩
購入ボタンを押した瞬間、画面が切り替わった。注文完了。その文字を目にしても、現実感は湧かなかった。
数分後、メール通知が届いた。購入確認のお知らせ。千円で買った投資信託は、これからどう動くのだろう。田中は何度もアプリを開いては閉じた。数字が変わっているわけではないのに、何か変わったような気がした。
翌日の朝礼で、佐藤は何も気づいていないようだった。当然だ。自分の決断のことを知っているのは、この世界で自分だけだ。その感覚は、妙に孤独でもあり、少し誇らしくもあった。
昼休み、デスクで同僚たちの会話を聞きながら、田中はスマートフォンを手に持ちしばらく見つめていた。アプリの画面には、保有中の投資信託が表示されている。数字は昨日と変わっていないが、株式市場は動いている。世界のどこかで、自分の千円が誰かの仕事と交わっているのだろう。
帰宅後、パソコンで投資信託について調べ始めた。これまで避けていた言葉が、今は自分事のように感じられる。基準価額、分配金、信託報酬。難しい用語たちが、ゆっくりと言葉ではなく意味になりはじめていた。
夜、ベッドの中でも思考は止まらない。千円は小さな金額だ。しかし同時に、これは始まりかもしれない。失敗しても、その先に何かがあるのではないか。そんな漠然とした予感が、田中の胸の中で静かに膨らんでいた。
月曜日、佐藤が声をかけてきた。『その後、どう?進めた?』。田中は小さく頷いた。『やってみました』。佐藤は笑った。『そっか。では次は、その先の話をしよう』。その言葉には、新しいステージへの招待が含まれていた。
続きはまもなく
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