第2話
初めての一歩
翌日、田中は朝から落ち着かなかった。デスクに座っても仕事に集中できず、何度も佐藤から借りたファイルを引き出した。昨晩は眠れず、スマートフォンで「投資信託 初心者」と検索し、無数の記事に目を通していた。
昼休み、佐藤に声をかけた。「昨日のアプリ、もう一度見せてもらえませんか。」佐藤は笑顔で席の隣に座り、画面を指でなぞりながら説明し始めた。「これは、複数の株や債券を組み合わせた商品なんです。自分で選ぶ必要がなくて、プロが運用してくれる。」
「でも、儲かるんですか。」田中は率直に聞いた。佐藤は少し考えてから答えた。「儲かるかどうかは、相場次第です。でも長期で見れば、銀行に置いておくより可能性がある、ということです。」
曖昧な答えだった。だが不思議なことに、その曖昧さが現実的に思えた。確実な答えが欲しい自分がいる一方で、世の中そんなに単純ではないことを、どこかで知っていたのだ。
「最初は、いくらから始めるんですか。」
「千円からのものもあります。」
千円。その数字は、田中の心理的な抵抗を大きく下げた。株のような大金ではない。失っても生活に支障はない。
その夜、田中は証券会社のウェブサイトを訪れた。口座開設の手続きが始まる。本人確認書類、銀行口座の連携、利用規約への同意。画面をスクロールするたびに、現実味が増していった。
まだ開設は完了していない。だが、その瞬間、田中の人生に小さな変化が起きていたことに、彼自身はまだ気づいていなかった。
続きはまもなく
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