第1話
第一話 コンビニコーヒーの値段を知らない女性
給料日の二週間前。部長に報告書を提出した帰り、後輩の佐藤が唐突に話しかけてきた。「田中さんって貯金とかしてます?」カジュアルな質問だったが、その時の佐藤の表情は妙に真摯だった。
正直に「ほぼゼロです」と答えた自分に、彼女は「もったいない」と呟いた。給料はそれなりにもらっているのに、月末になると口座は常に寂しい状態。むしろそれが当たり前だと思っていた。
「投資信託って知ってますか?」佐藤が続ける。投資。その単語は、自分の人生に無縁だと思っていた。危ないもの。お金持ちがやるもの。そんなイメージしかない。
「株とかですか?」恐る恐る聞く自分に、佐藤は首を傾げた。「説明するより見てみた方が早いと思って」と、スマートフォンのアプリを見せてくれた。画面には、数字とグラフが並んでいた。理解できない。だが、興味は湧いた。
帰りの電車で、自分は佐藤から借りたファイルを読んでいた。投信とは何か。分散投資とは何か。字面は理解できても、実感が伴わない。ただ、一つのことは確かだった。今のままではいけない、という漠然とした焦燥感が、初めて胸に生まれたのだ。
続きはまもなく
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