朝焼けの走行線

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第1話

第一話 五時四十分発

毎朝、同じ時間に玄関を出る。五時四十分。自転車に跨ると、まだ薄紫色の空が頭上に広がっている。通勤ルートは決まっている。駅前の大通りから右に折れて、河川敷沿いの細道に入る。ここがこのルートの一番好きなところだ。

朝のこの時間、河川敷はほぼ無人だ。たまにジョギングしている人がいるくらい。自転車のペダルを漕ぐ音、チェーンが回る音、そして自分の呼吸。その三つだけが世界の音になる。

最初のうちは、自転車通勤は単なる移動手段だった。ガソリン代を節約したい、運動不足を解消したい、そんな理由で始めたはずだ。でも三か月も続けていると、何かが変わった。朝焼けが見えるようになった。季節の変わり目を肌で感じるようになった。そして何より、毎日同じルートを走ることで、街が見える方法が変わったのだ。

夏の終わりから秋へ向かう今、河川敷の草の色が少しずつ変わってきている。雨の翌朝は土の匂いが強くなる。蝉の声は少なくなり、代わりに何か別の虫の鳴き声が増えている気がする。こんなことに気づくようになったのは、自転車だからだろう。車では絶対に気づかない。駅ナカの自動販売機で缶コーヒーを買って、プラットフォームで飲むだけの移動なら、こういう変化は見えない。

ペダルを漕ぎ続けていると、体が温まる。朝の冷たい空気の中で、自分の体から熱が生まれ、汗が出てくる。この感覚が嫌いじゃない。むしろ好きになってしまった。今朝も気温は低めだ。呼吸が白く見える。河川敷の土道を走る自転車は、少しずつ速度を上げていく。

目的地の駅に着くのはいつも六時二十分。着いた瞬間、朝焼けの時間は終わる。駅ビルの中に入ると、蛍光灯の明かりと人混みが待っている。でも今朝も、その時間までの四十分間が自分のものだ。そう思うと、ペダルを漕ぐ力が少し強くなる気がする。

続きはまもなく

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