第5話
ノイズの中で
「しかし」主人公は続けた。「それって、理屈ではわかるんです。でも、毎日アプリを開いちゃうんですよ。朝起きて、昼休みに、帰宅してから。数字が気になって」
佐藤は笑った。「それが正直でいい。誰だってそうだ。理屈と気持ちは別だからな」
数週間が過ぎた。主人公の投資信託の評価額は、時には前日比でプラス300円、時にはマイナス200円。その波に一喜一憂する自分が、少しずつ客観視できるようになっていた。
橋本から再びLINEが届いた。「今月、俺の投信がボーナスステージ入ったわ。利益確定するか、そのまま続行するか悩んでる」
主人公は返信した。「どうするんですか?」
「まだわからん。去年始めたときは、半年で売っちゃったんだよ。今思うと、もったいなかった。だから今回は、もう少し長く持ってみようかと思ってる。ただ、その『長く』がどのくらいなのか。そこが難しい」
画面の向こう側で、橋本も同じように迷っているんだ。その現実が、主人公には妙に心強かった。
投資信託を始める前、主人公にとってお金は「銀行口座の数字」でしかなかった。今は違う。それは自分の判断が反映される、生きた存在に感じられている。完全には理解できていないこの世界で、ただ一歩前に進むことの意味を、少しずつ掴み始めていたのだ。
夜中、アプリをもう一度開いた。評価損益はプラス412円。明日はどうなっているか、主人公にはまだわからない。だが、その不確実性こそが、何かを待つことの実感なのだと、ようやく思えるようになっていた。
続きはまもなく
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