第5話
第5話 最初の一歩
翌日の午後、僕たちはカフェに向かった。孫娘が「まず環境を整えましょう」と言い張ったのだ。スマートフォンのマイクでは限界があると、彼女のリサーチは早かった。
小型のUSBマイクと、無料の編集ソフトをダウンロード。それだけで、ポッドキャストを作る準備は整った。技術的なハードルは、思っていたより低い。
「では、録音しましょうか。」
孫娘がスマートフォンを構える。その時、僕は戸惑った。何を話すのか。どのトーンで。昔、ラジオ番組の初回放送前も、こんな気持ちだったのだろうか。いや、あの時は原稿があった。台本がある。進行表がある。
今、目の前にあるのは何もない白さだ。
「何か話しかけてくれませんか。何でもいいです。」と孫娘が促す。
僕は考えた。この年になって、素人としてマイクの前に立つ。昔のプロの自分ではなく、ただの祖父として。その落差が、妙に新鮮だった。
「では、こんなふうに始めてみようか。『こんにちは。僕たちは、今、迷っている。何を話すべきか、どんな声を出すべきか、全く見当もつかない。でも、その分からなさの中に、何か大事なものがあるんじゃないか。そう感じています。』」
マイクの向こう側に、何かが生まれた。確実に何かが。
孫娘は、その音声ファイルを再生した。僕たちの声が、スピーカーから戻ってくる。それは自分たちの『声』ではなく、すでに誰かほかの『声』になっていた。
「これです。」孫娘がつぶやく。「この違和感。この『何か』が、僕たちの周波数なんだと思います。」
まだ、形になっていない。でも、確実に何かが動き始めた。
続きはまもなく
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