第5話
第5話 「当たり前」の手前にあるもの
冷蔵庫の中を眺めていると、母からLINEが来た。「最近自炊してるって聞いたけど、何か作ってるの?」
返信に困った。何を作ってるのか。そう聞かれて、具体的に答えられない自分に驚いた。毎日作ってるはずなのに、それが何なのか言葉にならない。
「卵とか野菜とか」と返すと、母は「頑張ってるんだね」と返してくれた。その返信を見ながら、思った。僕は本当に頑張ってるのか。それとも、ただ習慣になってるだけなのか。
友人との約束を思い出す。完璧さを手放したあと、何かが変わるはずだった。でも変わったのは、自分の行動の効率性だけ。当たり前になることで、疑問を持つ余地がなくなってしまった。
それって、続けることじゃなくて、ただ繰り返してるだけなんじゃないか。
その夜、いつもと違う組み合わせを試してみた。冷蔵庫にある材料で、レシピを見ずに作る。失敗するかもしれない。でも、その迷いながら作る時間が、最近失われていたものだった気がした。
結果は及第点。完璧ではないけど、悪くない。そして何より、その過程が楽しかった。自動化されていた頭が、また動き始めたような感覚。
もしかして、続けるコツって二段階あるのかもしれない。最初は完璧さを手放すこと。その次は、当たり前になったものを、もう一度問い直すこと。
明日は何を作ろうか。その問いが、また重みを持ち始めていた。
続きはまもなく
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