ペンタブが鳴く夜に

1/1

第1話

第一話 「上達」という幻想

キャリア相談をしていると、よく「成長」という言葉が出てくる。仕事の成長、スキルの習得、キャリアラダーの上昇。でも最近、私はこの概念がデジタルイラストにも同じように適用されるんだろうか、って思うようになったんだよね。

きっかけは、SNSで見かけた「30日でプロ級の絵が描ける」みたいな広告。思わずクリックしてしまった。だって、キャリアの世界では「短期集中で成果を出す」ってロジック、結構通用するじゃない。でも描いてみると、なんか違うんだ。

実際にペンタブを握ってみて気づいたのは、イラストって、スキル習得というより「感覚を積み重ねるもの」なんじゃないかってこと。線一本、色選び一つひとつが、その時の手の感覚、目の見え方、頭の中のイメージとの距離感を教えてくれる。それを言葉にしたり、システム化したりするのって、すごく難しい。

「上達」を測ろうとすると、ついつい他人の作品と比較してしまう。あの人は半年でここまで、この人は1年で。でもそれって、その人の学習環境、手癖、好きなジャンル、全部無視してない?キャリア相談と違うのって、ここなんだと思う。仕事は相対評価できるけど、表現は相対評価の外にあるんじゃないか。

今、私は「上達の定義」をつけ直しているところ。昨日より手が少し柔らかく動いた、色の組み合わせについて考える時間が増えた、描きたいものが明確になった。そういう小さな変化が、実は一番大事な成長なんじゃないかな。短期的な「劇的変化」より、その過程が。

だから私は急がないことにした。焦ると、つい「効率的な上達方法」を探してしまうけど、表現ってそういうものじゃないんだって、最近やっと腑に落ちてきたんだよね。

続きはまもなく

目次

コメント