第6話
確認という贅沢
電話は三回鳴った。四回目で、クライアント側の担当者に繋がった。
「お疲れ様です。デザイン案の方向性について、一度ご確認させていただきたくて」
デザイナーは落ち着いた声で切り出した。だが、受話器の向こうは沈黙に包まれていた。
「方向性、ですか。仕様書には全て記載されているはずですが」
その返答に、デザイナーは深呼吸した。予想していた反応だ。だが、ここが踏ん張りどころだと感じた。
「仰る通りです。ただ、統計情報だけでは、実際の購買層の心理までは見えないかもしれないと思いまして。もし可能でしたら、ターゲット層の具体的なペルソナ、あるいは実際の顧客インタビューなどはありませんか」
もう一度、沈黙。
「……確認してみます。ただし、納期は変わりませんので」
電話を切った後、デザイナーは自分の選択を振り返った。これは効率を損なう判断かもしれない。確認作業が長引けば、デザイン期間は短縮される。それなのに、なぜ電話を入れたのか。
過去の大型案件での修正嵐を思い出した。あの時も、途中段階で「ちょっと確認させてください」と言えていたら。根拠のない選択肢から選び続けることの疲弊感も、思い出した。
スマートフォンの画面を見つめながら、デザイナーは気づいていた。これは効率の問題ではなく、信頼の問題だということに。クライアントを信頼し、自分の仕事を信頼するなら、最初の十日間で「何を作るべきか」を言葉にする時間は、決して贅沢ではないはずだ。
ただし、クライアント側がその時間を価値だと認識しているかどうかは、別問題だった。
続きはまもなく
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