第5話
確認という名の危機
確認する時間がないから、目的を問わない。それは本当に仕方のないことなのか。
デザイナーは、昨日の成功と今の違和感に挟まれていた。小さなクライアントとの案件では、目的を確認することで修正を最小化できた。効率と質が両立した。だが大型案件では、そもそも確認の時間がスケジュールに組み込まれていない。というより、組織体制自体がそれを想定していない。
なら、確認せずに進めるしかないのか。
デザイナーは、仕様書の「ターゲット層」欄をもう一度眺めた。年代、性別、年収、居住地。統計的には正確だろう。しかし人間味がない。この数字の背後に、実際の購買者の迷いや願いがあるはずだ。その文脈なしに、ビジュアルを決めるのは、根拠のない選択肢から無作為に選ぶのと変わらない。
デザイナーは思い出した。過去に手がけた大型案件で、途中から大幅な修正を指示されたことが何度もある。「思っていたのと違う」「もっと高級感を」「ターゲットに響かない」。その都度、スケジュールは圧迫され、予算も圧迫された。なぜなら、最初から「何を作るべきか」が共有されていなかったから。統計情報と指示書だけでは、クライアント側にも確信がないのだ。
デザイナーは席を立ち、スマートフォンを手にした。
納期まで十日。確認の電話を一本入れるのに、どれほど時間が要るのか。三十分か。一時間か。それとも、連絡ルートの複雑さから、思ったより長引くのか。
いずれにせよ、いま確認しなければ、十日後に同じ後悔をすることになる。修正に追われ、締切に追われ、根拠のない選択肢をただ繰り返すだけになる。
デザイナーは、クライアント側の窓口となる担当者の番号を見つけ、指を止めた。
確認することは、スケジュールを犯すことなのか。それとも、真の遅延を防ぐことなのか。その答えを出すためには、やはり一度、言葉を交わす必要があった。
続きはまもなく
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