第4話
大型案件の前で
デザイナーは画面から目を離し、天井を見つめた。
昨日の成功と今の迷いが、頭の中で絡み合っている。電話で目的を確認することが、すべての案件に適用できるわけではない。そのことは分かっていた。むしろ、多くのクライアントは既に決まった締切と予算の枠組みで、確認の時間などない。デザイナー自身、そうした制約の中で仕事を受けてきたのだ。
なら、大手クライアントの大型案件こそ、昨日の方法は通用しないだろう。組織を通した指示系統、複数の意思決定者、何度も繰り返される修正ループ。そこに「目的を確認する時間」という余白を割き込ませることは、スケジュール破綻を意味する。
デザイナーは再び画面に向き直り、その案件のブリーフを開いた。
五ページ分の仕様書。納期まで十日。予算の内訳もきちんと明記されている。一見すると、充実した指示だ。しかし読み進めるうち、違和感が広がる。「ターゲット層」という項目には、人口統計情報が羅列されているだけ。その製品を、なぜ買う人たちなのか。どんな問題を解決したくて、このパッケージを手に取るのか。そうした本質的な文脈が、どこにも書かれていない。
昨日の電話確認で、クライアント側も実は「目的を言語化できていなかった」ことが明らかになった。だから単純な修正で済んだのだ。では、この大型案件は違うのか。
デザイナーは手を止めた。
確認する時間がないから、目的を問わない。それは本当に正しい判断なのか。むしろ、規模が大きいほど、目的の曖昧さは深刻な影響を与えるのではないか。十日で完成させることと、正しく理解することは、本当に矛盾しているのか。
ポップアップウィンドウが立ち上がり、新しいメール着信を告げた。別のクライアントからの急ぎの修正依頼だ。締切は明日の午前中。デザイナーの指は、メールを開くか、まず何かを試してみるか、その判断の分岐点で止まっていた。
続きはまもなく
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