第1話
第一話 予想外のボトルネック
月曜の朝、田中は顧客企業の会議室で、経営層を前にした初回プレゼンを控えていた。数ヶ月かけて設計したAIエージェントのデモだ。営業からは「これで人手不足が解決する」と期待値が異常に高い。
デモは成功した。エージェントは営業データの入力から帳票生成まで、想定通りのフローを30分で完了してみせた。顧客の目は輝いていた。契約もほぼ確定。帰社後、営業からは祝いのメールが届いた。
ところが本導入の準備に入った途端、問題が露呈し始めた。現場のユーザーから次々と質問が上がる。「このエージェント、営業が急に仕様を変えたらどうなるの?」「結果がおかしかったときに、どこで止めて確認するの?」「ログとか監査証跡って、ちゃんと残るの?」
田中は初めて気づいた。デモと本番運用は全く別物だということを。技術的な完成度と、実務への適応性は全く違うのだ。
さらに厄介だったのは、エージェントが判断を下す過程が、ときどき予測不可能になるという点だった。同じ入力でも、外部APIの応答タイミングや過去の学習データの差異で、微妙に異なる結果が出ることがある。小規模なら許容範囲かもしれないが、決算処理に関わる数字が狂えば話は別だ。
金曜夜、田中は同期の佐藤とコーヒーを飲みながら愚痴をこぼした。「技術的には動いてるのに、なぜこんなに難しいんだ」と。佐藤は「それがエージェント導入の現実だよ。自動化の陰には、自動化できない判断が山ほどあるんだ」と返した。
翌週からの会議は、想定外の連続となる予感がした。
続きはまもなく
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