余白の時間

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第6話

第6話 言葉の重さ

電車は混雑していた。田中は本を閉じ、周囲を観察し始めた。

向かいに座る女性は、スマートフォンの画面をじっと見つめている。その手には、複数のショッピングバッグ。隣の中年男性は、新聞を広げながら時折ため息をついている。皆、何かに追われているように見えた。

著者は「虚しさは喪失感ではなく、初めて自分自身と向き合う時間が生まれるから」と書いた。しかし田中には、その言葉がすべてを説明しているとは思えなかった。人によって、その時間の受け取り方は違うのではないだろうか。

駅に着き、会社へ向かう階段を上りながら、田中は昨日の朝、机の上で感じたことを思い出していた。あの本が積み重ねられている光景。あれらの本は、本当に不要なものなのか。それとも、自分が理由を後付けしているだけなのか。

会社の自分の席に着くと、デスクの片隅に積まれたファイルが目に入った。いつ使ったか覚えていないものばかり。しかし、すべてを捨てることはできない。それは怠惰ではなく、判断の難しさだった。

昼休み、田中は同僚の田宮に声をかけた。「最近、物を整理するって難しくないですか」と。

田宮は一瞬、不思議そうな顔をして、それから笑った。「整理か。俺はもうあきらめてる。何が必要かなんて、その時になってみないとわからないし」

その言葉は、逆説的だが、ある真実を突いていた。

翌朝も、田中は同じ電車に乗った。あの本はカバンの中にはなかった。替わりに、白いノートを持ってきていた。乗車してから、ページを開き、ペンを握った。

「なぜ、その物を持っているのか。その理由は、今も変わらないのか」

そう書いてから、自分の部屋の風景を思い浮かべ始めた。本当に向き合うべきなのは、物ではなく、自分が問い続ける「なぜ」なのかもしれない。

続きはまもなく

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