第5話
第5話 朝日の中で
翌朝、田中は予定より早く目を覚ました。
寝ぼけた頭のまま、昨夜考えていたことが鮮明に戻ってきた。物を減らすことが目的ではなく、なぜそれを持っているのかを問い続けることが大切だという気づき。その言葉は、むしろ今の自分をもっと複雑にしてしまったような気もした。
朝日が窓を通して部屋に差し込んでいた。その光に照らされて、机の上に積まれた本が一層目立って見える。
田中は本に手を伸ばした。通勤電車で出会ったあの本だ。もう二度読んでしまっている。
ページをめくりながら、ふと立ち止まった。著者のあとがきに、こんな一節があった。「物を手放した後、多くの人は虚しさを感じるという。それは喪失感ではなく、初めて自分自身と向き合う時間が生まれるから」と。
虚しさ。初めて自分自身と向き合う。
田中は本を閉じた。通勤の準備をしながら、ふと思った。今の自分は、何かを手放す準備ができているのだろうか。それとも、単に疑問を持ったまま、迷い続けることになるのだろうか。
駅へ向かう道すがら、いつもと同じ風景が少し違って見えた。空は変わらず。音も同じ。でも自分の中では、何かが確実に動き始めていた。
電車に乗り込み、同じ席に腰を下ろす。そこでもう一度、あの本を開く。今度は、著者の体験に共感するのではなく、自分との違いを探すように。
続きはまもなく
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