第5話
データに映らない声
主人公は上司に電話をかけることにした。テキストではなく、声で。
「すみません。この資料、もう一日待ってもらえませんか。」
沈黙が返ってきた。上司は忙しい。承認待ちの案件は他にも山ほどある。
「アシストが出した構成は、確かに効率的です。ですが、クライアントとの話の中で気になった点があって」
主人公は、昨日の会話の中から、アシストが拾わなかった違和感を説明した。データシートには書かれていない、クライアントの言い方の微妙な変化。業界標準だと思われていた手法が、彼らの事業規模では逆効果になる可能性。
上司の返答は早かった。
「それ、アシストに入力した?」
「いえ。クライアントとの雑談の中での印象なので、どう入力したらいいか」
「そっか。じゃあその違和感、明日の朝、資料にまとめてくれる?代替案もあれば」
電話は切れた。了承ではなく、条件付きの先送りだった。
主人公は残業することにした。クライアントとのメール、通話記録、提案資料。すべてを読み返した。
アシストなら数秒で整理してくれるだろう。だが、今必要なのはそれではない。
人間にしかできないこと、それは「なぜそこに違和感を感じたのか」を言葉にすることだ。データに映らないものを、映るようにすることだ。
午後11時。主人公は別の視点から構成した資料を完成させた。アシストが提示した「最適解」ではなく、クライアントの事業に寄り添った提案。
それが通るかどうかは、別の問題だ。
しかし、少なくとも明日は、判断する側に、異なる選択肢が存在することになる。
続きはまもなく
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