第5話
第5話 記録の落とし穴
ストレッチを続けて二週間。手帳への記録も習慣化していた。毎日、朝と夜に肩の状態を簡単な記号で書き込む。それが次第に、私の生活の一部になっていた。
しかし、先週の木曜日。いつものように手帳を開いた時、ある違和感に気づいた。ここ数日、記号を付ける前に「どう感じるべきか」を考えている自分がいるのだ。客観的に記録しているつもりが、いつの間にか「改善を示す記録を残したい」という欲望が、判断に混入していないか。
実際、月曜日は肩がかなり張っていた。デスク到着時も午後も、先週ほどの改善は感じられなかった。それなのに、私は「ストレッチの効果が定着してきた」という解釈で、比較的良好な記号を付けていた。
気づいてしまうと、もう戻れない。その後の記録は、意識的に慎重になった。すると、グラフのように見えていた下降線は、実は上下動が激しいだけだったことが分かった。改善しているというより、単に「波がある」というのが正確な状態だったのだ。
同僚の田中さんに、ふと話してみた。すると、彼は笑いながら言った。「記録って、付けてると大事な情報も見落とすことがあるんだよね。何かのせいで肩が楽だった日もあれば、ストレッチしてたのに悪かった日もある。その理由まで含めて見ないと、結局は自分の都合で解釈してる」
そう指摘されて初めて、私は気づいた。朝のストレッチ、これだけで肩こりが改善するわけではない。前日の睡眠の質、その日のストレス量、作業姿勢、休憩の取り方。複数の要因が絡み合っているはずなのに、単一の対策で判断していた。
改めて手帳を見直す。記号だけでなく、その日の出来事も併せて記録してみることにした。何が、本当に効いているのか。知りたいのは、はっきりした正解ではなく、自分の体の仕組みそのものなのだ。
続きはまもなく
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