第5話
20年という時間軸の中で
給与明細と投資信託の画面を、また並べて眺めてみた。
手取り25万円。そこから家賃、光熱費、食費。毎月の固定費を差し引くと、残されるのは思ったより少ない。その中から3000円を捻出するのは、本当は結構な決断だったのだと、今になって気付く。
夜中に、スマートフォンで投資信託について検索した。「つみたてNISA 20年」「長期運用 複利」といったキーワードが並ぶ。計算ツールも見つけた。月3000円を20年続けると、元本はいくらになるのか。数字を入力してみると、答えが出る。ただし「運用成績による」という注釈が必ず付いてくる。
数字は、あくまで仮定だ。実際のところは、誰にも分からない。
翌日、田中に「20年って、本当に続きますか」と聞いてみた。
「何で急に」と笑われた。
「いや、3000円を毎月。給料が増えることもあるだろうし、転職するかもしれないし。その時も続けるのかなって」
田中は少し考えてから、「正直、分からん。けど、続ける必要もないんだよ」と言った。
「え」
「辞めたくなったら、辞めればいい。ただ、一度始めたなら、少しの間は付き合ってみてほしい。半年でもいい。1年でもいい。その間に何が起きるか、どう感じるか。それを知ってからでも遅くない」
その言葉を聞いて、肩の力が少し抜けた。20年という長さに圧倒されていたのかもしれない。
翌週の給与振込。また3000円が引き落とされ、投資信託の保有数量が増えた。運用成績は相変わらず小数点以下の世界。だが、今月は違う感覚があった。
これは終わりへのカウントダウンではなく、始まりの続きなのだ。
給与明細を見つめながら、次の月の3000円をどう作るか。その小さな選択が、実は一番大事な部分なのかもしれない。
続きはまもなく
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